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COLUMN

2020.03.21

「一番好きな花はなんですか?」

「前田さんが、一番好きな花はなんですか?」

よく取材を受ける際に、最後の方で聞かれるこの質問。
実は答えるのが苦手です。日々色んな花を手にして仕事をしているもので、
その都度それぞれの花の魅力をひしひしと感じている。
大好きな花がたくさんありすぎて、具体的な花の名前を一つ選ぶことが難しい。

大抵、うーんと悩んだあとに、「一年でも出回る時期が短いので、この季節は芍薬ですかね。」
と刹那的に言ってみたり、「最近guiで青い花を扱うことが増えて、青系の花に惹かれています」
と答えてみたりしている。でもどこかしっくりこない。


私がいま心底好きなのは、休日に鎌倉の山の中で出会う自然の風景。
花の市場では出回らないような小さな草花が野原のように広がっていたり、
コケが地面を埋め尽くすなかに、シダがワイルドに葉を伸ばしていたりする。
特にいまの時期はどんどん芽吹いて緑の割合が増えてくるので、
1週間ごとに見られる景色が違って、そんなことに涙がでるほど感動したりする。

自然の風景が本当に好きなので、「強いて言うなら野草です」と言ってみると、
バラとかラナンキュラスとか具体名を期待していたであろうインタビュアーの方が、
「な、なるほど、、、」と、地味で受けづらい回答にすこし困惑したりもする。
先日建長寺の奥の池のほとりで、満開のミツマタの群生を発見した。
街中でもよく見かけるジンチョウゲや金木犀に比べるとちょっとマイナーかもしれないけど、
鎌倉ではミツマタはお寺や住宅の庭にたくさん植えられていて、目にする機会が少なくない。
近くを通ると甘くて優しい香りがして、しばらくその余韻にひたった。

2週間後にここにきたら、花は散り、きっと風景はガラッと変わっているだろう。
「この季節だけの香り。この季節だけの花。」
花の魅力の一番はそこにあるんだということをもっと伝えられたらいいなと思う。